筋トレとがんの関係

有酸素運動の生活習慣病に対する好影響は巷間知られていることですが、「筋トレとがんの関係」について、著名な本やAI等のサイトからまとめてみました。

 

《筋トレとがんの予防》

●筋トレをするとがんの増殖を抑制するマイオカインが増える

・筋トレなどの運動をすると、筋肉からさまざまな生理活性物質が血液の中に分泌されるが、これをマイオカイン(myokine、別名:ミオカイン)と呼ぶ。

マイオカインには、糖尿病や肥満など生活習慣病に対する予防効果があることがわかっているが、イリシンやSPARC、インターロイキン6といった一部のマイオカインには、がんの増殖を抑制する作用があるものが発見されている。

つまり、筋トレで血液のなかに天然の抗がん剤マイオカインが増えて、がんができにくくなる。

・マイオカインは筋収縮に伴い骨格筋から放出されるサイトカインで、代謝調節、抗炎症作用、損傷再生時の骨格筋量の調節など、健康や疾患に関係するさまざまな効果を持つ。

 

●筋トレをすると免疫細胞が増える

・筋トレなどの運動をすると、その直後から血液の中に免疫細胞が増えることが確認されている。なかでも、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)はもっとも運動に反応して増加することがわかっている。たとえがん細胞が発生したとしても、筋トレによって血液中に増えた免疫細胞が、がん細胞を見つけて除去してくれると考えられる。

 

●筋トレはがんの原因となる肥満や糖尿病を防ぐ

・がんの一つの危険因子に、肥満や糖尿病がある。つまり、肥満や糖尿病の人は、大腸がんなどのがんの発症リスクが高くなる。

筋トレによって、血糖値の上昇が抑えられ、がんの原因となる肥満や糖尿病を防ぐことがわかっている。

・同時に、発がんを促進するといわれているインスリンの分泌をおさえることができる。

以上のような理由によって、筋トレががんの発生を抑えていると考えられる。

 

●筋トレはがんによる死亡リスクを31%減少させる

・では、実際に、筋トレをしている人は、がんのリスクが減るのか?

これについては、いくつかの研究がある。

まずは、イギリスにおける8万人以上の国民を対象とした大規模な研究で、2017年に Am J Epidemiol という雑誌に報告された論文から。

結果は、週に2回以上、筋力トレーニングをしている人は、そうでない人に比べて、すべての死因による死亡リスクが23%低く、なかでも、がんによる死亡リスクは31%低かったとのこと。

 

●週3回の筋トレで十分。やり過ぎも良くない

・ちなみに筋トレの方法に関しては、専用のマシンを使わない自重トレーニング(自分の体重を負荷として利用する筋トレ)も、ジムなどで行われる筋トレと同等の効果があると認められた。つまり、自宅でできる筋トレで十分ということ。

・日本の研究チームからの報告(2022/2 Br J Sports Med という雑誌に報告された論文)では、がんの死亡リスクは、筋トレの時間が週30分で最も低くなっていた。

ところが、筋トレ時間が週に130分を超えると、逆に死亡リスクは高くなることがわかった。

つまり、ほどほどがベストということ。

週に30分であるとすると、1回15分の筋トレを週に2日、あるいは1回10分を週に3日間やればいいということになる。

・一方、筋トレの実施時間が週130~140分を超えると、総死亡・心血管疾患・がんに対する好影響は認められなくなり、むしろリスクは高い値を示した。

・結論:本結果は筋トレの長期的な健康効果を示している一方、やりすぎるとかえって心血管疾患やがん、死亡に対する健康効果が得られなくなってしまう可能性を示唆する重要な知見である。

・石黒成治先生は1日30分 週に6回、計180分を勧めている。ジムでの負荷の高いトレーニングをするならば週に3回を推奨している。

 

《筋トレとがんの治療》

●筋トレをするがん患者は生存期間が延長する(つまり長生きする)

・がん専門医の外科医佐藤典宏先生は、はじめて外来を受診したがん患者を診察するとき、必ず「ふくらはぎ」を触る。(→ふくらはぎの太さはサルコペニアのリスクの簡単な指標である(指輪っかテスト))

・がんの診断後にも、筋肉が保たれている患者さんは、筋肉が減ってしまう患者さんに比べて、治療成績がよく、結果的に長期に生存できる可能性が高くなる。

・がんの治療を乗り切って克服するためには、筋肉を維持する必要がある。

・たとえば、がんの手術前に筋トレをすることで、合併症が減ることが明らかとなっている。

・また、抗がん剤治療中に筋トレすることで、副作用が減ることもわかっている。

・さらに、驚くべきことに、筋トレをするがん患者は、生存期間が延長する(つまり長生きする)という研究データもある。

・進行がんでは、血液中に流れ出す「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質によって筋肉が分解される。

・抗がん剤治療中には、副作用で運動量や食欲が低下し、筋肉の量が1キロ減ると言われている。

・アメリカで実施された、2,863人のがんと診断されたサバイバーについての研究によるとアンケートによって、「筋トレ(週に1日以上のウェイトトレーニング)をしているかどうか」などについて調査し、その後の生存期間との関係を解析した。

その結果、筋トレをしているがん患者は、筋トレをしていない患者に比べ、全生存期間が延長しており、がんを含めた全ての死因による死亡リスクが33%も減少していた。

では、がん患者さんはどんな筋トレをどのくらいやればいいのだろうか?

実際には、これがベストという決まったやり方はない。

患者自身のこれまでの運動習慣、体力(筋力)、および病状や治療内容によって、それぞれ調整すべきだと考えられている。

 

●上半身、体幹部、下半身の筋肉を意識したメニューが良い

・アメリカがん協会による「がんサバイバーのための栄養と運動ガイドライン」では、「1週間に150分(2時間30分)以上運動することを目標にする」ことに加えて、「1週間に2回以上の筋トレを運動に含むこと」が推奨されている。

また、筋トレは、レジスタンス(抵抗)運動という名前からもわかるように、抵抗(負荷)が軽すぎると意味がない。

したがって、一般的には、「少しきつい」と感じる程度の筋トレを、1週間に2~3回行うのが良い。

具体的な筋トレのメニューについては、基本的には筋肉にしっかりと負荷がかかればどんなものでもよいが、上半身、体幹部、下半身の筋肉を意識したメニューが良い。

「腕立て伏せ」、「フロントブリッジ(プランク)」、「スクワット」、「カーフレイズ(踵の上げ下げ)」、「片足立ち」

それぞれの注意点は次の通り。

「スクワット」・・・屈伸したときに足先より膝が前に出ないように。膝が内側に入らないように。そうしないと膝を痛めやすい。コーナースクワットを勧める。

「片足立ち」・・・片足1分ずつ。余裕があれば、まっすぐ立ち、片足立ちのまま、もう一方の片足を前、横及び斜め後ろ(中臀筋を鍛える)、後ろ(大臀筋、ハムストリングを鍛える)に上げ、キープする。

・課題は筋トレを続かせること。そのためには自分に合った方法を見つけること。

 

(参考文献等)

・佐藤典宏(2021) 『がんに負けないたった3つの筋トレ』 マキノ出版.

・佐藤典宏(2023) 『がんの壁  -60代・70代・80代で乗り越える-』 飛鳥新社. 

・佐藤典宏(2020) 『がんにならないシンプルな習慣』 青春出版社.

・石黒成治(2020) 『筋肉が がんを防ぐ。 専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』 KADOKAWA.

・2022/03/01公開、『筋トレで死亡・疾病リスクが減少 – 早稲田大学』、閲覧日 2023/9/5、

www.waseda.jp/top/news/78613

・崎谷博征(2018) 『ガンは安心させてあげなさい  -「ガン安心療法」の最前線 ガンの大本は生命場の乱れにあり-』 鉱脈社.  

・安保徹(2012) 『人がガンになるたった2つの条件』 講談社.  

 

《豆知識》

《骨格筋ポンプ》

・運動生理学で扱う体力とは「持久力」、「筋力」である。

・中高年特有の疾患の根本原因は、加齢性筋減少症に伴う体力低下の可能性が高い。

・運動不足、肥満など体力低下を引き起こすような生活習慣で慢性的な炎症反応が起こる。

・加齢によって筋力が低下すると、筋肉中のミトコンドリアの機能(エネルギーの生成、自身の「アポトーシス(細胞死)」の制御、活性酸素の制御)が劣化する。

・犬が立位でいる婆では血液量の70%が心臓より上部に位置している。従って、血液は静水圧(重力)で自然に心臓に戻ってくる。

人は血液量の70%が心臓より下に位置している。

・人の血管はゴムのような柔らかい粘着弾性体なので静水圧(重力)によって血液を貯留してしまう。特に静脈血管において特に顕著である。

・静脈血を心臓に戻す役割は、心臓だけではなく、筋肉も担っている。筋肉が収縮すると、静脈が圧搾されて、静脈弁のある静脈血が心臓に向かって流れる。これを骨格筋ポンプと呼ぶ。(静脈血が心臓に向かって流れるのは、肺静脈を除き3種類の圧力を受けるからである。すなわち、心臓の収縮、骨格筋ポンプ、呼吸ポンプである)

 

(豆知識の参考文献)

・能勢博(2019) 『ウォーキングの科学』 講談社.