加齢とともにいろいろな衰えが出ます。そのひとつに内臓やそれを支える筋肉の下垂があります。ここでは、下腹部の内臓下垂による尿漏れ、慢性便秘、子宮下垂といった個々の病気・未病への対処というより、引き起こす要因となっている体質を改善するツボ療法について説明します。
東洋医学では加齢に伴う内臓下垂を「脾」と「腎」の衰えと見ます。
「脾」には消化吸収した栄養物質を心、肺に昇らせるという昇清(しょうせい)という働きや、内臓を落ちないようにする、支えるという働きがあります。東洋医学ではこの働きの衰えが内臓下垂の原因の一つととらえます。
次に「腎」も重要です。「腎」の持つ気(持って生まれた先天的なエネルギー)は加齢とともに衰えるわけですが、腎が支配する、特に下腹部の器官の機能にも減退症状があらわれてきます。
ツボ療法としては、「脾」、「腎」、下腹部を強化するツボ、内臓下垂を予防する特効穴及び反射区を使います。さらに運動療法も加えます。項番1(青の太字のツボ)、3、4がお勧めです。
1. まず、「脾」、下腹部を強化するツボ、内臓下垂を予防する特効穴です。
①右図「百会」(頭部正中線と左右の耳尖を結んだ線の交叉部)
髪際から指幅7本上か7本弱(女性は6本上)で少しくぼんでいるところを探ります。古来、脱肛、子宮脱、胃下垂を治すツボとして有名です。頭のツボで治すとは、不思議に思われるかもしれませんが、下腹部は「督脈」という経絡でつながっています。
「百会」」の押し方は首筋を立て脊髄の真ん中めがけて気を送りこむことをイメージします。もっともお勧めのツボです。
②下腹部のツボを使います。
右図「気海」 (臍の中心から真下に指2本)
精神的及び肉体的疲労にも効く名穴です。
「関元」 (臍の中心から真下に指4本)
正確には臍から恥骨結合上縁を5等分し、上から3/5に取ります。「丹田」とも呼ばれ、泌尿生殖器、婦人科の症候群に効く名穴で、応用範囲の広いツボです。
「子宮」 (恥骨結合上縁中心から上方に親指幅1本さらに指4本横)
子宮下垂、胃下垂によく効きます。
「帰来」 (恥骨結合上縁中心から上方に親指幅1本さらに指3本横)
「帰来」は元に帰る、戻るという由来があり、子宮下垂のツボとして有名です。
「気海」、「関元」、「子宮」、「帰来」の押し方は次の通りです。立つか、寝た状態で、肛門や尿道を強くしめ、骨盤底筋を引き上げ、息を口から細く吐きながら、5~10秒長めに押していきます。そして、緩めます。これを3~5回繰り返します。
③「脾」、「胃」を強化します。
右図「三陰交」 (内踝の直上指4本、脛骨の後縁)
消化器系の機能改善はもちろんのこと、血流を改善し、全身の冷えをとる名穴です。女性にとっては必須のツボです。
「陰陵泉」 (脛骨内側踝の下縁の陥中)
脛骨内側を膝に向かって擦上すると骨の湾曲部に至って止まるところにとります。むくみをとります。去湿の要穴と呼ばれ、湿邪を取り除く特効穴です。
「血海」 けっかい (大腿骨内側膝蓋骨内上角の上方指3本)
瘀血を取るツボとして有名です。
右図「中脘」 (胸骨体下端(肋骨弓が交差する部位)から臍までの線の中央)
臍の中心から真上に指4本+1本のところに圧痛を探る方法が分かりやすいと思います。少し前かがみの姿勢で押します。
「章門」(第十一肋骨尖端の下際)
肘関節を屈して肘尖の当たるところに圧痛を求めます。肘を90度に曲げ、さらに少しうしろに引いた方が第十一肋骨尖端に当たります。
右図「足三里」 (膝の外側直下の小さなくぼみから指4本分下)
2. 足の反射区とツボで「脾」、「腎」を強化します。
右図「膵臓ゾーン」 (拇指球の3cmぐらい下のリスフラン関節上)
「胃十二指腸ゾーン」(足裏第一中足骨の基部)
消化吸収を正常化します。双方のゾーンとも指圧棒を使って押し揉みます。方向としては内側から外側に向けて押し込みます。
「湧泉」(足の五指を屈し足底中央の最も隅なるところ)
中国では足の中心線で、指の付け根から踵までの長さの指の付け根から1/3のところにとりますが、ここでは少し上のくぼんだところとします。指圧するときは一番反応のある箇所を選んでください。指圧棒を使い、皮膚に直角に押し、最後に足先のほうに押しこんで脱力します。
「副腎ゾーン」 (「湧泉」の真下)
3. 運動療法です。簡単にできる全身のひねり運動です。横回転の「スワイショウ」という気功法がお勧めです。
①立った姿勢で、足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
②腕の力を抜いて、腕を垂らしたまま、頭頂から背骨、尾骨の縦の線を軸にして、ウエストをひねって回転運動をします。
③腕と肩の力を十分に抜き、腕は体に巻きつくようにまかせる感じです。勢いをつけて回さないでください。
④首もあわせて回しますが、めまい防止のため回しすぎないでください。
⑤左右に巻きつくとき口からふっと息を吐きます。吸うときは自然に任せます。但し、無理をする必要はありません。自然に任せてください。
⑥時間にして1~2分程度、1日1~2回行ってください。
4. インナーマッスルのトレーニングです。
①骨盤底筋を鍛えます。お勧めのトレーニングです。
項番1で記述した「気海」、「関元」、「子宮」、「帰来」を押す際は次の要領で押してください。
・仰向けに寝て、軽く足を広げて膝を立てます。腰は落としておきます。骨盤底筋が弱まっている状態だと、腹圧がかかり支えきれないため、この場合は腰を上げません。
・腰を上げても体勢を支えることができる方は、仰向けに寝て、軽く足を広げて膝を立てます。足裏同士を合わせる方法もあります。より強度が増します。
・次に肛門や尿道をしめながら、骨盤底筋を上に引き上げます。骨盤内の臓器を上に持ち上げることをイメージします。その際、息を口から細く吐きながら、上記のツボを5~10秒間長めに押していきます。そして緩めます。これを3~5回繰り返します。
②太もも上げです。
・腸腰筋を鍛えます。
・まっすぐ立ち、太ももを前方に上げます。股関節の角度は慣れてきたら90度ぐらいです。
・加えて、太ももの先、膝から10cmぐらい上を両手でつかみ抵抗を与えます。抵抗を与えることがポイントです。