次の観点から、対象法を記述します。
・肩を損傷し、急性的な痛みがある場合の対処法及びその後のフォロー
・慢性的な五十肩の対処法
・肩の損傷後、痛みはあらかた取れたが、力が抜けてしまう症状の対処法
・動作時に痛みが残る場合やなかなか痛みが取れない場合の対処法
肩関節をめぐる経絡(ツボの経路)、特効穴及び足の反射区を使っていきます。
1. 肩を損傷したときの対処法です。
①急性期はまず冷やすことです。24時間対応の湿布薬がおすすめです。日常的な動作で痛みが止まるまで冷やし続けます。症状が重い場合、5~7日はかかるはずです。但し、冷やすのはあくまで急性期のみの対応です。
②ある動作をして、痛みがある箇所にピップエレキバンを貼ってください。圧痛点(押して痛みがあるところ)ではありません。あくまで、動作の中で痛みがあるところです。肩の筋肉の付着部に沿うはずです。複数箇所になります。
③ある程度痛みが止まったら、次のツボに対処してください。肩関節で古来有名な肩腕の痛みに効能のあるツボです。炎症を起こしている場合はさわりません。
右図「肩髃」 (肩峰の外端で肘を上げると2つのくぼみが生じる、その前のくぼみ)
「肩髎」 (肩峰の後下部、肩甲棘外端の下際)
「臂臑」 (肩峰の外端で肘を上げると2つのくぼみが生じ、その前のくぼみより指4本下)
上肢を下ろした場合は5横指、三角筋前縁にとります。ほぼ、前脇下横紋端の水平線上です。
右図「巨骨」 (鎖骨の肩峰端と肩甲棘の間の陥凹部)
「臑兪」 (腋窩横紋後端の上方で、肩甲棘外端の下方陥凹部)
圧痛を探します。
以上のツボはお灸(せんねん灸)がお勧めです。熱くなければ壮数を重ねてください。熱くなった時点で終了です。すぐに取り除いてください。お灸が苦手な方はピップエレキバンを貼ってください。これらのツボは患側のみです。
④上記の方法で痛みが軽減しない場合、肩甲骨の圧痛点を狙います。特に「天宗」の周りを押してみてください。棘下筋、小円筋の圧痛点に指を差し込み、筋肉を引きはがすようにスライドします(赤字矢印参考)。圧痛点は複数箇所あります。
⑤足の反射区を使う方法です。
右図の足の外側「肩」~「上腕」~「肘」及び「肩甲骨」が施術対象です。傷めている側と同じ側の足を使います。前者は足の甲と裏の境目に手の親指の爪を差し込み、そのままの形で足の裏側及び表側の方向に引きはがすようにスライドします。特に圧痛があるところは念入りにします。後者「肩甲骨」は押し揉みます。あまり強く擦ると内出血しますのでご注意願います。
「肩」 (第五中足骨遠位端(末梢部))
「上腕」 (「肩」、次の「肘」の間)
「肘」 (第五中足骨近位端(基部)
「肩甲骨」 (第四中足骨と第五中足骨の間)
2. 慢性的な五十肩の対処法です。
施術箇所は患側のみです。
①「上腕骨結節間溝」(肩の前面で上腕二頭筋(力こぶ)の長頭の腱が通る溝)の間を押圧します。または、圧痛点1~2箇所にピップエレキバンを貼ります。
手のひらを前に向けると上腕骨結節間溝がわかりやすくなります。
次に「大胸筋」の外縁を押圧し、内側に筋肉をはがすようなイメージでほぐします。
②「極泉」 (腋窩中央、腋窩動脈拍動部)
拍動部にこだわらず、数カ所を押してください。
③「肩貞」 (肩関節の後下方、腋窩横紋後端の上方親指幅1本)
腋窩横紋端も含めて近辺も押してください。腋窩横紋端には「後腋下」というツボがあります。
④「天宗」 (肩甲部、肩甲棘の中点と肩甲骨下角を結んだ線上、肩甲棘から1/3にある陥凹部)
「天宗」を含む肩甲棘の下縁のエリア、特に、棘下筋、小円筋の圧痛点に指を差し込み、筋肉を引きはがすようにスライドします(赤字矢印参考)。圧痛点は複数箇所あります。
(本項、次項の参考資料)
・張軍(2010)『実用中国手技療法 臨床編』廖伊庄(リャオ,イチュアン) 監修・訳 ガイアブックス.
・石垣英俊(2019)『コリと痛みの地図帳』池田書店.
・杉本錬堂(2015)『天城流湯治法エクササイズ』ビオ・マガジン.
⑤右図の親指と人差し指の中手骨(緑の線)の縁に指を差し込み、内側に筋肉を引きはがすようにスライドします(赤字矢印参考)。この手法は杉本錬堂先生の著書を参考にしています。特に後ろ側の痛みの場合に有効です。
5分以上時間をかけて、施術してください。
3. 五十肩には必須の運動療法です。急性期が過ぎた後、行ってください。予防法としても有効です。
①肩の先端に手指を当て、肩を後方に、左右交互にぐるぐる回します。回数は20回程度です。鵜沼宏樹先生が推奨している仰泳法という気功法です。
②次に左右一緒に前方に20回程度回します。次は後方に20回程度回します。
4. 本項は筋トレを習慣にしている方で次のような症状が出たときの対処です。
肩の痛みは支障がないぐらいなくなりますが、負荷をかけている途中で力が抜けてしまうという症状です。特にラットプルダウンのときです。
対処方は次の通りです。
・上記項番1③の「肩髃」、「肩髎」、「臂臑」、「巨骨」、「臑兪」にピップエレキバンを貼ります。
・三角筋を縦に走るすじが何本か見えます。そのすじに沿って響くところを探し、ピップエレキバンを貼ります。
・三角筋がかなり弱っています。前部、側部、後部に分けて弱い負荷から少しずつ強化していきます。三角筋に重い負荷は不要です。それよりも毎日やることです。
5. ある動きをした時、またある姿勢をした時に肩の痛みまたはこわばりが残っている場合があります。その場合の対処法その1です。治療後に残る動作時の痛みは、鍼灸では「経筋」の病といわれています。この場合、痛みやこわばりのあるところを流れている経絡(ツボの経路)の熱を取るツボ「滎穴」、関節の痛みを取るツボ「兪穴」と呼ばれているツボが有効です。ピップエレキバンを貼るか、せんねん灸をします。よく効きます。
①肩の前面に残る痛みの場合です。
右図「魚際」(手掌、第一中手骨中点の橈側中央、赤白肉際陥凹部)
ここでの赤白肉際とは手掌と手背の境目です。以下同様です。その境目にくぼみがあります。
「太淵」 (手関節掌側横紋の橈側端、陷中)
②肩の前面やや外側に残る痛みの場合です。
右図「二間」(示指、第二中手指節関節橈側遠位(指先側)陥凹部、赤白肉際)
「三間」(手背、第二中指節関節橈側の近位(手首側)陥凹部)
ここでの遠位とは指先側、近位とは逆に手首側です。
③肩の外側に残る痛みの場合です。
右図「液門」 (手背、薬指と小指の間、水かきの近位陥凹部)
手背部第四と第五中手関節白肉際にとります。
お灸の場合、やりにくい位置にあります。輻射熱で近くの皮膚がやけどをしないように十分注意をしてください。
「中渚」(第四、第五の中手指節関節の後ろ陥みの間にある)
④肩の後側に残る痛みの場合です。
右図「前谷」(小指尺側第五中手指節関節の前陥中(遠位)、赤白肉際)
「後渓」(手背、第五中指節関節尺側の近位陥凹部、赤白肉際)
6. 動作時に痛みが残る場合の対処法その2です。
腕を回外したまま、右図の通り、三角筋中部の起始(肩峰)のくぼみに指を押し込み、下に向けスライドします。
7. 動作時に痛みが残る場合の対処法その3です。
・ある動作をしたときに痛みがある場合、その動作をしたまま、痛みがある筋肉を探ると圧痛や著明な痛みがある箇所が見つかります。
・その動作をしたまま、その痛みがあるところを長押しすると痛みが一旦止まります。
・一旦おさまりますが再発します。再度上記の手法を行います。繰り返します。
・痛みが出やすい動作を避けてください。