東洋医学では体の「冷え」を未病の一つとして重要視し、「冷え性」ではなく、「冷え症」と表します。食事、運動や生活習慣[注参照]の中で体質を改善していくことが大切です。且つ、このページで紹介しているツボ及び先に紹介した「養生のツボ」もあわせて日常的に押し、改善を図ってください。梅雨時、また冷房による冷えの対処は項番8を参照してください。
[注]
・お風呂はシャワーで済ませない
・朝食を抜かない
・下半身を冷やさない
・根菜類を食べる
1. 現在、冷えを感じている方はすぐに次の対処をしてください。ひどくなると、立っていられないほどの倦怠感、下痢が症状として出てきます。
①足首を温めてください。特にアキレス腱あたりに冷えを感じると思います。ハイソックス、レッグウォーマー等方法はお任せします。足首には6つの全身をめぐる経絡が走っています。
②おへそを真ん中にして使い捨てのカイロを貼ってください。大腸、小腸の機能が落ちることを防ぎます。腸は心身のみならず脳、免疫力に影響を与えます。冷え症の方は使い捨てカイロを携帯しておいてください。
③秋の終わりから冬、春先にかけて、首に何かを巻いてください。夏、冷房の寒さによる冷えの場合も同様です。方法はお任せします。風邪(ふうじゃ)は首の後ろから入ります。
2. 気血を体の末端まで回す力が衰えています。手や足の冷えには捏五指法(ねつごしほう)という気功法がお勧めです。
手の各指を揉みます。揉み方は指を1本ずつ片方の手で握り、根元から先端に向けて、斜めの方向に回しながら押し揉んでいきます。各指5回ぐらい揉みます。一日何セット回行っても結構です。高麗手指鍼によれば、中指は脳や首~肩、親指と小首は足全体、人差し指と薬指は手~肩に対応しています。
3. 体全体が冷えるという方のためのツボです。体全体が冷えるといろいろな症状が出てきます。体を温める力が衰えています。「陽虚」と言います。腎(エネルギー系)と脾、胃(消化器系)の経絡(ツボの経路)を調整し、改善していきます。
①右図「照海」 (内踝の直下の陥中)
内踝の直下、指幅半分または指1本強と二つ説がありますが、割れ目を狙い圧痛点を探ります。親指で上向きに押します。特に足の冷えによく効きます。
「三陰交」 (内踝の直上指4本、脛骨の後縁)
冷えを取る名穴です。私に冷え症を改善するつぼ療法をひとつだけ挙げろと言われたら、「三陰交のお灸」を挙げます。
「陰陵泉」 (脛骨内側踝の下縁の陥中)
脛骨内側を膝に向かって擦上すると骨の湾曲部に至って止まるところにとります。むくみを伴う冷えによく効きます。
「血海」けっかい (大腿骨内側膝蓋骨内上角の上方指3本)
冷えを取る代表的なツボです。
②右図「湧泉」 (足の五指を屈し足底中央の最も隅なるところ)
中国では足の中心線で、指の付け根から踵までの長さの指の付け根から1/3のところにとりますが、ここでは少し上のくぼんだところとします。指圧するときは一番反応のある箇所を選んでください。
「副腎」 (湧泉の下のエリア)
「腎臓ゾーン」 (第二、第三中足骨の近位端でリスフラン関節線の上)
「心臓ゾーン」 (左足の裏での中指と薬指のまたから3~4cm踵より)
「心臓ゾーン」は左足のみです。
「湧泉」、「副腎」、「腎臓ゾーン」は強めに押しこんでください。
4. 胸鎖乳突筋近辺のツボを押すことで、自律神経を整え、血行を良くし、冷えを改善します。
右図「天容」 てんよう (前頸部、下顎角と同じ高さ、胸鎖乳突筋前方の陥凹部)
「天牖」 てんゆう (前頸部、下顎角と同じ高さ、胸鎖乳突筋後方の陥凹部)
「天窓」 てんそう (喉頭隆起と同じ高さで胸鎖乳突筋の後縁)
「扶突」 ふとつ (前頸部、喉頭隆起上縁と同じ高さ、胸鎖乳突筋の前縁と後縁の間(中央))
「人迎」 (前頸部、甲状軟骨上縁(のどぼとけ)と同じ高さ、胸鎖乳突筋の前縁、総頸動脈上)
甲状軟骨上縁(のどぼとけ)と同じ高さにあり、胸鎖乳突筋の前縁が人迎、中央が扶突、後縁が天窓です。)
c (天窓の下、胸鎖乳突筋の後縁)
人差し指、中指、薬指の3本で軽く押します。
これらのツボは、顔を横に向け胸鎖乳突筋を浮き出させた状態で、人差し指、中指(をツボに当てて)、薬指の3本の指を揃えて、軽く押します。胸鎖乳突筋近くのツボは刺激が強いので長押しは避けてください。特に胸鎖乳突筋の前縁のツボです。3~5秒押しを繰り返してください。
5. 下半身の気血の流れが滞っています。骨盤内を温めます。特に女性の方は重要です。
①右図「腎兪」 (第二、第三腰椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
背中から触れる第十二肋骨の先端を結んだ線になります。
「志室」 (腎兪の傍、指2本)
「気海兪」(第三、第四腰椎棘突起間脊柱の傍、指2本)
「大腸兪」(第四、第五腰椎棘突起間脊柱の傍指2本、腸骨の上端の高さ)
②仙骨孔にあるツボを2箇所押します。臀裂(いわゆるおしりの割れ目)から指1本強横です。仙骨孔は神経の通り道であるため、やさしく押します
「上髎」 (仙骨部第一後仙骨孔)
第一後仙骨孔は次の「次髎」から擦上すると陥凹部を触れます。
「次髎」 (仙骨部第二後仙骨孔)
上後腸骨棘(じょうこうちょうこつきょく)の内側斜め下に孔があり、押すとさしこむような痛みがあります。鼠径部中央の線の真後ろで臀裂から指1本強横に陥凹部があります。
③臀裂から指2本横を上から2箇所押します。
小腸兪 (第一後仙骨孔と同じ高さ、正中線の外方指2本)
「上髎」と同じ高さです。
膀胱兪 (第二後仙骨孔と同じ高さ、正中線の外方指2本)
「次髎」と同じ高さです。
④臀裂から指4本横を上から4箇所押します。
次のようなツボがあります。
「胞肓」 ほうこう (臀部、第二後仙骨孔と同じ高さ、正中仙骨稜の外方指4本(次髎の外方指3本))
「秩辺」 (第四後仙骨孔と同じ高さ、仙骨裂孔(仙骨の下端)の外方、指4本)
⑤2020/2/5 NHKで放送された『東洋医学ホントのチカラ』で、「冷え症」ツボとして紹介されていました。
「臀中」 でんちゅう (大転子から坐骨結節の線を底辺とした一辺で三角形を作り、その頂点)
上記の「秩辺」の下で少し外側の圧痛点に取ります。
上記①~⑤の腰部、殿部のツボ全体を手のひらまたは拳でマッサージしても結構です。
⑥右図「気海」 (臍の中心から真下に指2本)
精神的及び肉体的疲労に効く名穴です。
「関元」 (臍の中心から真下に指4本)
正確には臍から恥骨結合上縁を5等分し、上から3/5に取ります。
「丹田」とも呼ばれ、泌尿生殖器、婦人科の症候群に効く名穴で、応用範囲の広いツボです。「気海」、「関元」ともに、息を口から細く吐きながら、長めに押していきます。
⑦冬は使い捨てのカイロで項番②、③及び⑥のツボを含む一帯を温めてください。気持ちも和らぎます。お勧めします。但し、低温やけどには注意してください。夏は夏用腹巻の着用を勧めます。
6. 体の中心が冷え、特におなかの調子が悪く、体の抵抗力がないという方へのお勧めです。次の①、②のどちらの方法でも結構です。
①足裏の腸の反射区への押圧です。特に夏です。指圧棒または歯ブラシの柄の先でも結構です。まず、大腸の反射区です。右足から左足での数字の順番に押してください。2と3のラインはリスフラン関節の少し下方(但し、第四中足骨基底部では同関節の上方)、5のラインは内髁と外髁を結んだ線になります。つぎに小腸の反射区です。斜めの線のエリアを押し揉んでください。
②右図のおなかのツボを押し揉んでください。一番のお勧めです。少なくとも朝起きたときと夜寝るときに寝床で行って下さい。それ以上行った方がより効果があります。
「府舎」 (鼠径溝の中央から指1本上方)
「腹哀」 (上腹部、臍中央の指4本上方、前正中線の指3+3本外方)
仰向けに寝て膝を立て、おなかの筋肉をゆるませます。左右の親指と中指及び薬指で二つのツボをシーソーのように交互に50~100回ぐらい押し揉みます。ツボの位置のまわりも含めてください。
7. 骨盤部、下肢の反射ゾーンを使って骨盤部含めて末梢の血流改善をする方法もお勧めです。
①右図左側「子宮、前立腺・睾丸ゾーン」(足の内側、内踝と踵骨の後下端を結んだ線の中点)
右図右側「卵巣、睾丸ゾーン」 (足の外側、外踝と踵骨の後下端を結んだ線の中点)
上記の中点を中心に斜線部分全体及び矢印のところを揉んでください。特に踝の下、斜め下を揉んでください。少し痛いですが。
「骨盤部のリンパ腺ゾーン」 (内、外両側の踵の大部分)
「大腿部のリンパ腺ゾーン」 (アキレス腱に沿った線)
斜線の入った矢印部分もあわせてやわらかく押し揉んでください。
「鼠径部リンパ腺ゾーン」 (内踝と外踝をつないだ線)
8. 梅雨時、また冷房による冷えへの対処です。中国古代の五行思想では、「風」、「暑」、「湿」、「躁」、「寒」を五悪と言い、それぞれ順に「肝」、「心」、「脾」、「肺」、「腎」の五臓を傷つける気象条件としています。梅雨から夏にかけての「湿」は「脾・胃」、おなかに影響を与えます。また、冷房による冷えは自律神経を乱します。梅雨時、冷房の冷えには項番2、特に「去湿の要穴」と呼ばれている陰陵泉、「血証の要穴」と呼ばれている三陰交、おなかの調子を整える項番5の反射区、手軽にできて自律神経を整える項番1がお勧めです。項番4の夏用腹巻の着用もお勧めです。
9. 筋肉、特に大臀筋、中臀筋、大腿四頭筋、大腿二頭筋、下腿三頭筋等の下半身の強化はぜひ必要です。「自分でできる運動療法」または「運動による養生法」ページを参考にしてください。筆者は「スワイショウ(甩手)」、「コーナー・スクワット」を勧めます。膝に不安がある方は「コーナー・スクワット」の代わりに「レッグエクステンション」を勧めます。
10. 厚着をしないように、長湯をしないように、汗を盛大にかかないようにしてください。厚着、長湯、汗はかえってからだを冷やします。貝原益軒先生は養生訓で次のように記しています。
「厚着をして、熱い火にあたり、熱い湯に入り、長湯をし、熱いものを食べて、体を温めすぎるときが外にもれて気が減り、気がのぼる。これは皆、人の体にとても害がある」