心の疲れ

東洋医学では臓腑を六臓六腑に分類していますが、その分類の中に「脳」というものがありません。「こころ」は六臓六腑全般にあると考え、「こころ」の不調は六臓六腑の経絡(ツボの経路)の全般に且つ相互に影響を与えるとしています。従って、「こころ」の不調は体にいろいろな症状が出てきます。

中国古代の思想に五行思想があり、いろいろな事象を5つに分類しています。臓を「肝」、「心」、「脾」、「肺」、「腎」に分類し、それぞれの臓に影響を与える「こころ」の動きをそれぞれ「怒(いらいら)」、「喜」、「思(考えすぎる)」、「悲(沈む)」、「恐」と当てはめています。「肝」、「心」、「脾」、「肺」、「腎」の経絡を整えることで、それぞれのこころの動きを中庸に戻し、体の不調も整えます。

最も中心となるのは、「心」です。神志(精神作用)を司るとし、いっさいの精神・意識・思惟は「心」の機能に帰するとされています。 

本ページのツボ療法では、「こころ」の疲れに合わせた代表的な名穴を選んでいきます。

 

1. ツボ療法の話の前に

・東洋の知恵です。老子は「やわらかく、しなやかに生きること」を教えています。ある意味、逃げることも大事だと思います。

・そして、悩みを分かち合える人がいること、相談する人がいることも大事です。

 

2. それぞれへの対応です。

①不安、心配、憂いといった心情に対応します。「心」に関わるツボを使います。「こころ」の疲れで最も基本的なツボです。

右図「膻中」 (胸骨体の中央、両乳中穴を結び正中線と交わるところ、胸骨の正中で少し窪んだくぼんだところで按じて痛むところ、または、左右の脇の下を結んだ線の中点から真下の指4本)

古来、邪気を取り除くツボとして有名です。拇指の下のふくらみで、まるく揉みます。または、中指の先で静かに押さえます。

 

右図「神門」 (腕横紋上で尺側手根屈筋腱の橈側(親指側)にとる)

不安(パニック)を取り除き、気持ちを安定させます。片方の手の拇指で皮膚に直角に押し、示指の根元の方向に押しこんで脱力します。そのほうがひびきがあると思います。下右図の「三陰交」との組み合わせで心身症治療に使います。

「内関」 (腕関節掌側横紋の正中から指2本)

心窩部の痛みに効き、不安や動揺を抑えます。 

 

右図手の「心包区」(中指を下がった手のひらの中央)

②思い悩み、考えすぎによる落ち込み、沈み込みを和らげます。胃腸系の経絡「胃」、「脾」のツボを使います。

右図「中脘」 (胸骨体下端(肋骨弓が交差する部位)から臍までの線の中央)

臍の中心から真上に指4本+1本のところに圧痛を探る方法が分かりやすいと思います。

右図「足三里」(膝の外側直下の小さなくぼみから指4本分下)

消化器系を整えます。次項の「湧泉」、「足三里」とも慢性疲労から回復させ、気力を取り戻します。気力を取り戻すことは打開策を生むためにも必要です。

右図 「三陰交」 (内踝の直上指4本、脛骨の後縁)

 

③おそれやくじけそうになる気持ち、落ち込みへの対応です。「腎」のツボを使います。

右図「湧泉」 (五指を屈し足底中央の最も隅なるところ)

 

次のツボも腎の虚を改善する名穴です。

「照海」 (内踝の直下の陥中)

内踝の直下、指幅半分または指1本強と二つ説がありますが、割れ目を狙い圧痛点を探ります。親指で上向きに押します。

「復溜」(内踝の上指3本アキレス腱の前縁)

 

 

④悲しみや切なさによる気分の落ち込みを和らげます。「肺」のツボを使います。

右図「中府」 (鎖骨の外端の下方の陥凹部から指1本半下) 

肋骨にそって体の奥深く指を入れ込み、ゆっくりと押します。上肢の内側に響きます。

 

右図「太淵」 (橈骨の手根関節の掌側腕横紋の外縁、陷中)

⑤イライラ、怒りを鎮めます。「肝」のツボを使います。

右図 「太衝」(第一、第二中足間を圧上して指の止まるところ) 

イライラして気分が鬱屈したときのツボです。

 

次項の頭のツボも有効です。

3. 頭が重い、頭痛が出やすいと言った症状の対応です。

①右図「百会」(左右の耳尖を結んだ線と正中線との交叉部)

髪際から指幅7本上か7本弱(女性は6本上)で少しくぼんでいるところを探ります。脳を活性化し、集中力を高めます。

「四神聡」 (百会の前後左右親指の幅1本)

「神」は精神の意味、「聡」は聡明の意味で、精神状態を落ち着かせることができ、自律神経のバランスが是正され、頭の感じをスッキリさせる効果があるツボです。百会の後のツボは単独で「防老」と呼ばれるツボです。

②次に督脈(頭の正中線)、膀胱経(頭の正中線から指二本横)、胆経(前頭部眉毛中央を上がった線)という経絡(ツボの経路)を人差し指、中指、薬指、小指の腹で押しながら、前髪際から後ろに少しずつ上がっていきます。コツは四指を少し広げ、頭のくぼみを探り、頭皮に指の腹を押しつけ、前後に揺らします。表面を揺らしますと髪が引っ張られますので注意してください。

なお、督脈、頭頂部の膀胱経、胆経の個々のツボの位置については「頭の正中線のツボ図解」ページを参照してください。

 

次に右図の後頭部の督脈(頭の正中線)、膀胱経(頭の正中線から指二本横)、胆経(前頭部眉毛中央を上がった線)という経絡を人差し指、中指、薬指、小指の腹で頭頂部から項部にむけて押していきます。コツは上述と同じです。

 

③右図「風池」 (僧帽筋腱(僧帽筋の起始部)と胸鎖乳突筋の間の陥凹部、後頭骨の骨際)

体の正中線より指3本弱外側に位置します。

「天柱」 (盆のくぼの中央から指2本外側で僧帽筋腱の外縁陥凹部)

左右の「風池」を結んだ線より少し下側に位置します。「風池」を結んだ線には「上天柱」というツボがあり、「天柱」に劣らぬ効用があります。首を後ろに倒し、首の重みを利用して右側は左手の(左側は右手の)中指で押さえた方が効きます。

「健脳」 (風池より指幅1.5本下)

指幅1本下という説もありますが、本サイトでは1.5本下とします。

「百労」 (脊柱の正中第七頸椎棘から指幅3本分上、外側指1.5本)

人によって第七頸椎棘から指幅4本分上が効く場合もあります。

「風池」、「天柱」、「健脳」、「百労」とも脳内の血流を良くし、疲労をとります。

「肩井」 (第七頚椎棘と肩の骨の先端(肩峰角)を結んだ中央)

第二、第三、第四指を揃えて肩上に当て、第三指(中指)が当たるところで、押すとズンとひびきます。皮膚に対して垂直に押します。

「天髎」 (肩井の後ろ指1本)

内側への斜め後ろのほうが響きます。

4. 背中が重い、特に肩甲骨間が凝るといった症状への対応です

右図「肺兪」 (第三、第四胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)

左右の肩甲棘突起内端を結んだ線上を目安にしてください。

厥陰兪」 (第四、第五胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)

心兪」 (第五、第六胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)

膈兪」 (第七、第八胸椎棘突起間脊柱の傍、指2本)

「膈兪」は左右の肩甲骨下縁を結んだ線上を目安にしてください。

魄戸」 (第三、第四胸椎棘突起間脊柱の傍、指4本、肩甲骨内縁)

「膏肓」 (第四、第五胸椎棘突起間脊柱の傍、指4本、肩甲骨内縁、最も強い響きのあるところ)

神堂」 (第五、第六胸椎棘突起間脊柱の傍、指4本、肩甲骨内縁)

譩譆」 (第六、第七胸椎棘突起間脊柱の傍、指4本、肩甲骨内縁)

 

肩甲骨の間のツボは人に押してもらうことが一番効果的ですが、それができない場合は右図の足裏の第1中足骨のアーチ部分から少し外側の線を押していきます。棒状にかたくなっているところを念入りに押していきます。

 

5. 次は、特に自律神経失調症への対応です。

右図左側「指間穴」 (手の甲側のまた)

右図右側「八風」(足の親指から小指までの指の間)

「指間穴」、「八風」は手足の冷えを治すツボでもありますが、自律神経の乱れも改善します。

6. 次の図はノジェ式による三角窩(耳の上部、三角形をした浅いくぼみ)、耳垂(耳たぶ)の刺鍼点です。(鍼療法図鑑;ハンス‐ウルリッヒ・ヘッカー(ほか著)、兵頭明(監修)を参考にしています)

各耳ツボは個別に爪等を使って軽く押さえます。

次の方法も勧めます。三角窩全体、耳垂全体の前側を人差し指の腹で、その後側を親指の腹で挟み、押しもみます。その後、三角窩はほんの少し上方に、耳垂はほんの少し後下方にひっぱります。気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。

[注]

「神門」 (耳の上部、三角形をした浅いくぼみ(三角窩)、正確には対輪上脚と対輪下脚によってできる角の上、対輪上脚寄り。三角窩を3等分し、後方1/3の区域の上方対輪上脚寄り)

精神安定、自律神経のバランス改善に著効のある最も重要なツボ

②「交感」 (対輪下脚と耳輪の交差部)

自律神経のバランス改善、安定に重要なツボ

③「攻撃性抑制点」 (珠間切痕縁の下、顔より)

依存症、重要な精神作用点

④「不安および心配点」 (攻撃性抑制点の下)

不安、心配

⑤「抗鬱点」 (攻撃性抑制点と同じ高さ、耳輪の内側)

憂鬱な気分

⑥「悲しみおよび喜び点」 (耳垂の後頭部、不安および心配点と同じ高さ)

生きる喜びの喪失、悲しみ

⑦「マスター・オメガ・ポイント」 (耳垂の下部(尾側部))

自律神経系の調和、重要な精神作用点