ここでは慢性疲労を引き起こす体質を改善するためのツボ療法について説明します。
●東洋医学の観点から慢性疲労を引き起こす体質は「気虚」、「腎気虚」、「気滞」と考えます。「気」という概念はとらえどころがない概念ですが、次のように定義します。
東洋医学は生体を維持する要素として気血水(きけつすい)があると考えて、生命を生かしていくいろいろなエネルギーを「気」という概念で表します。「気」は一つではありません。運動、成長、免疫、防御、代謝、維持、治癒、思考、記憶等、肉体的に、精神的に、いろいろな活動している「気」があります。
・「気虚」は気が不足しているタイプで、消化器系の機能低下があります。
・「腎気虚」は身体的、情緒的、精神的、環境的なストレスが積もり重なり、あるいは強すぎたために、身体が耐えきれなくなっています。朝、起きることができないほどの疲労感、倦怠感があります。
・「気滞」は「気」の流れが滞っているタイプで、「血」、「水」にも影響を与えます。特に冷え、こりが出ます。この冷え、こりが疲労、記憶力の低下を招きます。
●一方、五臓の観点から見ると「腎(持って生まれた先天的なエネルギー)」、「脾(消化器系、後天的なエネルギーを生み出す)」、「肺(呼吸、気を司る)」に衰えがあるか、安定しません。この状況を「虚」と言います。
・「腎虚」は上記「腎気虚」を参照してください。
・「脾虚」は「痰湿(水滞、水毒)」という体質になりやすく、注意が必要です。冷えを招き、だるさ、疲労感が出ます。特に、雨や湿度の多い日、午前中調子が悪い、体が重いという症状が出ます。そういう日は、余分な「水」が「気」「血」の循環を邪魔します。
・「脾虚」のため、「肝」にも影響を与え、イライラすることがあります。
・鼻水、咳、痰、喘息、気管支炎、肺炎等になりやすい方は「肺虚」です。激辛の食事は避けて下さい。
●上記の観点から、「気虚」、「腎気虚」、「気滞」への対応、「腎」、「脾」、「肺」を強化するためのツボで手当てをします。なお、「気虚」、「腎気虚」、「気滞」、「痰湿」については、「体質とツボ」ページを参照してください。
《豆知識》
・慢性疲労症候群とは、原因不明の激しい慢性疲労のために、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態を指す。極度の疲労感、脱力感、だるさ、頭痛、筋肉痛や関節痛、睡眠障害など、さまざまな症状を伴う。ストレスなどが引き金になって免疫力が低下し、感染を繰り返して発症する。線維筋痛症と合併するケースも多く見られる。
・慢性疲労症候群の中核的な症状は、インフルエンザなどの感染症に罹患したときに自覚するような極度の消耗、衰弱が長期間続き、いくら安静にしていても疲労が抜けず、急速や睡眠を取っても回復しない。休息や睡眠を取ることで疲れが軽減し、回復するといった、健康な人が自覚する疲労感とは全く異なる。
・2014~2015年に実施された厚生労働省「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査事業」においても、慢性疲労症候群患者248名の内、症状が重いPS8(しばしば介助が要り、日中の50%以上は就床している)~PS9(身の回りのことはできず、常に介助が要り、終日就床を必要としている)の患者が75名(30.2%)認められ、慢性疲労症候群による日常生活困難者に対する早急な支援体制構築・体勢の検討が必要であることが示されている。
(豆知識の参考文献)
・今野孝彦(2017)『痛みを取りたければからだを温めなさい』マキノ出版.
・ゆらり/著 倉恒 弘彦/監修(2019)『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』合同出版.
1. 「気虚」、「気滞」への対応です。
①右図「百会」 (頭部正中線と左右の耳尖を結んだ線の交叉部)
髪の生え際から指幅7本上または7本弱(女性は6本上)で少しくぼんでいるところを探ります。
「四神聡」 (百会の前後左右親指の幅1本)
「神」は精神の意味、「聡」は聡明の意味で、精神状態を落ち着かせることができ、自律神経のバランスが是正され、頭の感じをスッキリさせる効果があるツボです。
「通天」(「百会」の大体指2本強斜め前)
四神聡の前のツボと並びます。
②次に右図督脈(頭の正中線)、膀胱経(頭の正中線から指二本横)、胆経(前頭部眉毛中央を上がった線及びその外側の線)という経絡(ツボの経路)を前髪際指2本下から後方に少しずつ上がっていきます。
特に督脈、前髪際指2本下から前髪際までの線(正中線から外側に向けて額中線、額旁Ⅰ線、額旁Ⅱ線、額旁Ⅲ線)を念入りに押してください。脳活性化を狙います。
頭部の押し方には二つあります。
・ひとつは頭皮揉搓法です。人差し指、中指、薬指の腹で軽く押して前後にゆらしながら進みます。くぼみがあればそこをすこし揉捻します。表面を揺らしますと髪が引っ張られますので注意してください。高齢者、体力が弱っている方向けです。
・もうひとつは親指での指圧です。自分でやる場合は中指を使います。経絡に沿って指2本ずつぐらい離して押していきます。押したら3~5秒キープします。できれば、「頭のツボ図解」ページを参照し、督脈、頭頂部の膀胱経、胆経の個々のツボの位置を意識してください。
③次に後頭部です。
右図の外後頭隆起の上下の横の線を押します。
目安として、
右図b1外後頭隆起の下の線(2本)、
b2外後頭隆起の上の線、
を中心部から側頭部にかけて押してください。b2の線上には「脳戸」、「玉枕」、「脳空」というツボが並んでいます。
「脳戸」 (頭部、外後頭隆起上方の陥凹部)
「玉枕」 (「脳戸」の外方指1.5本強の小さなくぼみ))
「脳空」 (「玉枕」の外方指1.5本弱(「脳戸」の外方指3本)のくぼみ)
且つ、耳尖(耳介の尖がった先)の指1本弱上から指4本ほど後方のくぼみ(「星状点(アステリオン)」)も念入りに押して下さい。
「星状点」 (ラムダ縫合、頭頂乳突縫合及び後頭乳突縫合の合点) お勧めです。
さらに、後頭部、側頭部を指で探るとあちこちに凹凸があります。くぼんでいて、少し痛いところを押します。これも効果的です。
項(うなじ)をマッサージする手法もお勧めです。ストレスを開放し、気持ちが落ち着きます。
項全体(生え際~項の下まで)を上下に36回やわらかくマッサージします。
ご家族に慢性疲労の方がいらっしゃれば、「背中のツボ図解」ページを参照していただいて、背中の脊柱起立筋に沿った膀胱経のツボを押してあげてください。全身の不調を改善します。
④右図「膻中」 だんちゅう (胸骨体の中央、両乳中穴を結び正中線と交わるところ、胸骨の正中で少し窪んだくぼんだところで按じて痛むところ、または、左右の脇の下を結んだ線の中点から真下の指4本)
不安、心配といった気の病を治すには欠かせない名穴です。古来、邪気を取り除くツボとして有名です。拇指の下のふくらみで、まるく揉みます。または、中指の先で静かに押さえます。
⑤右図「気海」 (臍の中心から真下に指2本)
精神的及び肉体的疲労にも効く名穴です。
「関元」 (臍の中心から真下に指4本)
正確には臍から恥骨結合上縁を5等分し、上から3/5に取ります。「丹田」とも呼ばれ、応用範囲の広い名穴です。
2. 「腎虚」、「腎気虚」、「脾虚」、「肺虚」への対応です。
①右図「湧泉」 (五指を屈し足底中央の最もくぼんだところ)
「副腎」の反射区 (湧泉の下のエリア)
②右図「足三里」 (膝の外側直下の小さなくぼみから指4本分下)
③右図「三陰交」 (内踝の直上指4本、脛骨の後縁)
「三陰交」は「腎」、「肝」、「脾」の経絡が交わります。
「復溜」(内踝の上指3本アキレス腱の前縁)
腎の虚を改善する名穴です。
④右図「太淵」 たいえん (手関節掌側横紋の橈側端、陷中)
「気海」と合わせることで、「気虚」、「肺虚」の改善に効果があります。
「内関」 (腕関節掌側横紋の正中から肘に向け指2本)
3. 横回転の「スワイショウ」という気功法もお勧めです。
①立った姿勢で、足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
②腕の力を抜いて、腕を垂らしたまま、頭頂から背骨、尾骨の縦の線を軸にして、ウエストをひねって回転運動をします。
③腕と肩の力を十分に抜き、腕は体に巻きつくようにまかせる感じです。勢いをつけて回さないでください。
④首もあわせて回しますが、めまい防止のため回しすぎないでください。
・猫背で首が前に出る姿勢の方は首を前向きに固定したまま、腰をひねる方法を勧めます。
⑤左右に巻きつくとき口からふっと息を吐きます。吸うときは自然に任せます。但し、無理をする必要はありません。自然に任せてください。
⑥時間にして1~2分程度、1日1~2回行ってください。
4. ストレスがコリや冷えを生じさせます。それが「気」、「血」の流れをさらに悪くさせ、回復を遅らせます。
特に、項頸部(盆の窪の一帯)、下腹部(おへその下、指2~4本下)、臀部(仙骨あたり)をタオルや冬は使い捨てカイロで温めるようにしてください。
5. 高齢の方は、「認知症予防のポイント」を一読してください。特に、「知的好奇心をもつこと、外出&社会との接触」等、良質なコミュニケーションを保つことが大切だと思います。