歯の養生は日常的な正しい歯磨きの習慣(歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス)、定期的な歯医者での検診、咀嚼です。口の体操もお勧めです。
ここではさらに加えてツボによる歯の養生について説明します。慢性的な歯周病のケアに最適です。
中国古代の五行思想では、「目」、「舌」、「口」、「鼻」、「耳」を五根と言い、それぞれ順に「肝/胆」、「心/小腸」、「脾/胃」、「肺/大腸」、「腎/膀胱」の臓/腑と対応させています。「歯の病いは胃火ののぼるなり」つまり、歯の病は「胃」と関係が深いとしています。また、「筋」、「脈」、「肉」、「皮毛」、「骨髄」を五体と言い、東洋医学の「骨髄」は「骨」、「歯」を表し、「腎」と関係が深いとしています。
これらの観点から「胃」、「腎」の経絡(ツボの経路)、特効ツボを使用します。
なお、ツボへの刺激方法としてお灸、運動法以外は指で押してください。歯の養生の場合は10秒ぐらい少し強めで押し続けるのがコツです。
1. 顔のツボからです。
①右図「下関」 (頬骨弓の下縁中点と下顎切痕の間の陥凹部)
耳珠の下の方の前に下顎骨関節突起が触れ、さらにその前の陥凹部にとります。口を開けると下顎骨関節突起が前に移動して陥凹部が持ち上がります。上の奥歯の養生です。
「翳風」 (耳垂後方、乳様突起下端前方の陥凹部)
耳たぶの後ろにあり、口を開けば陥凹部が現れます。口を軽く開けた状態で押します。下の奥歯の養生です。
「頬車」 (下顎角の指1本前上方)
「大迎」 (下顎角の前方指2本半弱の陥凹部、動脈手に応じるところ)
「大迎」を含む下顎骨の下縁3~4cmのエリア(右図緑)も押しこんでください。唾液が出てきます。
「翳風」、「頬車」、「大迎」は下の奥歯の養生です。
②右図「顴髎」(頬骨の下縁目じりの直下陥中)
上の奥歯の養生です。
「迎香」 (鼻唇溝中(法令線上)、鼻翼(小鼻)外縁中点と同じ高さ))
「水溝」 (鼻の下の溝の中点または上1/3)
「人中」とも呼ばれます。
「迎香」、「水溝」は上の前歯の養生です。
「承漿」(頤唇溝の中央(下唇の下端と顎のふくらみとの中間))
下の前歯の養生です。
2. 足と手のツボです。
①右図「女膝」 (踵の尖端で、足の裏の赤っぽい色から「かかと」の普通の肌色に変わるその境界線のところ)女室とも言います。
「女膝」は歯周病(歯槽膿漏)の名穴です。お灸がとてもよく効きます。炎症を起こしているときは熱くありません。熱くなる(あたたかくなる)まで何壮でも繰り返してください。慢性化している場合は、長期にわたり、お灸(せんねん灸)を続けることを勧めます。次第に落ち着いてきます。
②足の反射区を使用した療法です。慢性的な歯茎の腫れの予防としてお灸をお勧めします。
右図「口腔ゾーン」(足の甲側、親指の爪の下、親指の末節と基節にまたがる)
右側の歯茎の腫れは右足の親指に、左側の歯茎の腫れは左足の親指に施術をしますが、お灸をする場所は腫れている歯茎の場所により異なります。
・前、上の歯茎……親指第1関節より遠位(足先の方)、親指の内側
・前、下の歯茎……親指第1関節より近位(足首の方)、親指の内側
・奥、上の歯茎……親指第1関節より遠位(足先の方)、親指の外側(人差し指側)
・奥、下の歯茎……親指第1関節より近位(足首の方)、親指の外側(人差し指側)
上の場所で圧痛点を探ってみてください。わからなければ、図を目安にしてください。熱くなるまで何壮もやります。状況が改善してくると少ない壮数で熱くなります。
注意点は親指の外側に施灸するとき、人差し指がお灸の近くにならないように人差し指を押さえておいてください。やけどを防ぐためです。お灸に慣れていない方はこの施術を止めてください。
③右図「合谷」 (手背、第2中手骨中点の橈側)
歯痛の時、歯医者に行くまでの応急手当として最適です。しっかりと片方の手の親指の先で押し込みます。ピップエレキバンも有効です。
3. お勧めの口の体操です。福岡のみらいクリニック院長で内科医・東洋医学会漢方専門医の今井一彰先生が提唱する口呼吸を鼻呼吸に改善していく口の体操「あいうべ体操」です。簡単ですが、いろいろな動作が含まれています。
先生のサイトでは次のように説明しています。
(1) 「あー」と口を大きく開く
(2) 「いー」と口を大きく横に広げる
(3) 「うー」と口を強く前に突き出す
(4) 「ベー」と舌を突き出して下に伸ばす
(1)~(4)を1セットとし、1日30セットを目安に毎日続けます。
《豆知識》
中国に古くから伝わる口腔内の養生法を二つ紹介します。
1. 寝る前に口を閉じて上下の歯であたかも物を咬むようにカチカチと奥歯を36回、次に前歯を36回かみ合わせます。虫歯や知覚過敏に良いとされています。
2. 朝起きたら、口の中を清潔にし、唾液を口の中にためて、グチュグチュと口の中で36回攪拌し、ゆっくりと3回に分けて飲み込みます。口腔内の衛生を保つとされています。唾液は「玉泉」とも呼ばれ、先天の気を司る腎を養います。
貝原益軒先生も養生訓で勧めています。
(豆知識の参考文献)
・鵜沼宏樹(2005)『症状を楽にする簡単気功レシピ』春秋社.
・王斑(2008)『中国的民間健康術』バジリコ.
・貝原益軒(1973)『養生訓』松田道雄訳 中央公論社.
・蔡一藩(1998)『まさつ<経穴(ツボ)>健康法』青春出版社.