天気の変化、特に低気圧や台風が来ると体調が悪くなるといった症状、いわゆる気象病のツボ療法です。気象病は一般に次のように定義されています。気温、湿度、気圧等の気象の変化によって症状が出現する、あるいは悪化する心身の不具合の総称。不具合として、例えば、頭痛、首の痛み、めまい、耳鳴り、気管支ぜんそく、関節痛、神経痛、古傷の痛み、うつ、不安症等が挙げられます。
東洋医学の観点から見ますと、人間の体も自然の中の原理原則に従うと考えられています。古い教科書「中国漢方医学概論」(編著者:南京中医学学院、1965年初版)に次のような文章があります(46ページ)。
『人と自然の関係は、「霊枢[注1参照]」の邪客篇の中で、「人と天地は相応ず」と言われている。天と地は自然界を代表し、相応ずとは自然界の変化が人体に影響を与えるとき、人体は必ず自然界に相応ずる反応を生じることを指すのである。』
低気圧がくると(特に急激な気圧の変化)
・空気が上昇→人間の体の気も上昇→上半身に気が滞る→代謝(流れ)が悪いところに滞る→バランスが取れなくなる(特に自律神経)
・湿度が高くなる→体に水分がたまりやすくなる→代謝(流れ)が悪いところにたまる→痰湿[注2参照]の病症が出てくる
・冷える→特におなか、腰、下半身→東洋医学のエネルギーの概念である「気」、「血」、「水」の循環がうまくいかない。
[注1] 霊枢:世界遺産にも登録されている中国最古の医学書
[注2] 痰湿の症状:体の重だるさ、手足のだるさ、むくみ、めまい、頭痛、朝起きることがつらい等
ツボ療法としては「自律神経を整える」、「冷え症の改善」、「体質とツボ/痰湿の改善」の観点から選びます。
1. 自律神経を整えます。
①右図「内関」 (腕関節掌側横紋の正中から肘に向け指2本)
「労宮」(中指、薬指を折り曲げて双方の先端の当たるところの中間)
中指、薬指双方の先端の中間ではなく、中指の先端という説もありますが、ここでは中間とします。手のひらの中心は「手心」と呼ばれるゾーンで、「労宮」のまわりも含めてゆっくり押してください。気持ちも落ち着きます。
「神門」 (腕横紋上で尺側手根屈筋腱の橈側(親指側)にとる)
気持ちを安定させます。片方の手の拇指で皮膚に直角に押し、示指の根元の方向に押しこんで脱力します。そのほうがひびきがあると思います。
②耳をめぐる経絡のツボから改善します。
右図「翳風」 えいふう (耳垂後方、乳様突起下端前方の陥凹部)
耳たぶの後ろにあり、口を開けば陥凹部が現れます。口を軽く開けた状態で押します。
「瘈脈」 けいみゃく (耳の上角と翳風の耳の輪郭に沿って結ぶ曲線上、翳風から1/3で乳様突起中央の陥中)
「顱息」 ろそく (耳の上角と翳風の耳の輪郭に沿って結ぶ曲線上、翳風から2/3で骨陥中)
「耳門」 (耳珠の上切痕前陥中)
「聴宮」 (耳珠中央の前の陥中)
「聴会」 (耳珠の前下方で口を開いたときの陥中)
ダイエットの耳ツボ「飢点」はこのツボより上方で耳側になります。
「耳門」、「聴宮」、「聴会」とも口を開けながら、凹んでいるところを押します。
右図「率谷」 そっこく (耳尖の直上、指2本)
「天衝」 (耳介の付け根の後縁の直上と率谷と同じ高さの交点)
「浮白」 (頭部、乳様突起の後上方、天衝と完骨(項番1)を結ぶ(耳の輪郭に沿った)曲線上、天衝から1/3)
「頭の竅陰」 きょういん (頭部、乳様突起の後上方、天衝と完骨(項番1)を結ぶ(耳の輪郭に沿った)曲線上、天衝から2/3)
右図「安眠」 (耳たぶのうしろに触れる乳様突起という骨(頭蓋骨の一部の尖ったところ)の後ろ側の少しくぼんだところ)
お勧めのツボです。目の方向に押します。
「完骨」 (乳様突起下端より後上方指1本弱(骨がくぼんだところ)または乳様突起下端より後下方、陥凹部)
「翳風」 えいふう (耳垂後方、乳様突起下端前方の陥凹部)耳たぶの後ろにあり、口を開けば陥凹部が現れます。「翳風」は「耳のツボを使う方法」でも出てきます。
耳輪の後ろのエリア及び乳様突起下のエリア(右図参照)を下から上に押すと効果的です。お勧めします。
③親指と人差し指で耳の上、下、横を挟み、それぞれ上方、下方、横方向にそれぞれ3~5回ずつやさしくひっぱります。コツは次の通りです。
・右図矢印の元から先端の方向に指で軽擦しながら引っ張ります。
・少し顔を上向き加減にして、口をぽかんとあけます。自然にあくびが出れば正解です。
④胸鎖乳突筋の後の縁のツボをマッサージします。
顔を横に向け胸鎖乳突筋を浮き出させた状態で、胸鎖乳突筋の後ろ側の縁を下から上の方へ順に指の腹で軽く回しながら押し揉んでください。3回程度行ってください。コリがある場合は痛みますが、すこし手加減しながら行ってください。
2. 冷えとむくみを改善します。
①右図「照海」 (内踝の直下の陥中)
内踝の直下、指幅半分または指1本強と二つ説がありますが、割れ目を狙い圧痛点を探ります。親指で上向きに押します。特に足の冷えによく効きます。
「三陰交」 (内踝の直上指4本、脛骨の後縁)
冷えを取る名穴です。
「陰陵泉」 (脛骨内側踝の下縁の陥中)
脛骨内側を膝に向かって擦上すると骨の湾曲部に至って止まるところにとります。むくみを伴う冷えによく効きます。
「血海」(大腿骨内側膝蓋骨内上角の上方指3本)
冷えを取る代表的なツボです。
②右図「湧泉」 (足の五指を屈し足底中央の最も隅なるところ)
中国では足の中心線で、指の付け根から踵までの長さの指の付け根から1/3のところにとりますが、ここでは少し上のくぼんだところとします。指圧するときは一番反応のある箇所を選んでください。
「副腎」 (湧泉の下のエリア)
「腎臓ゾーン」 (第二、第三中足骨の近位端でリスフラン関節線の上)
「心臓ゾーン」 (左足の裏での中指と薬指のまたから3~4cm踵より)
「心臓ゾーン」は左足のみです。
「湧泉」、「副腎」、「腎臓ゾーン」は強めに押しこんでください。
3. 体が冷える場合は温めてください。温める箇所としては、
おなかの下、仙骨、大腿四頭筋、下腿三頭筋(ふくらはぎ)
道具は、簡易のカイロ、湯たんぽ、ドライヤー等を使用してください。