経絡とは何か

「経絡とは何か」について、ツボ療法になじみがない方向けにできるだけ理解しやすく説明していきたいと思います。

 

「経絡学説」は「陰陽」、「五行」、「臓腑」、「営衛気血」とともに東洋医学の理論の基礎をなすものです。

 

「経絡」については、これまでその科学的な根拠に関するさまざまな臨床実験や研究がおこなわれているものの、完全にその存在は証明されていません。しかし、数千年にわたる東洋の古代の人が育んできた経験や臨床の積み重ねで、「経絡」をはじめとする東洋医学の理論体系ができあがりました。現代も新たな理論や手法が研究され、組み込まれています。

 

それでは説明していきます。

 

1. 人間の体は自然界の原理原則に従う

このことは東洋医学のベースです。

 

古い教科書「中国漢方医学概論」(編著者:南京中医学学院、1965年初版)に次のような文章があります(46ページ)。

 

『人と自然の関係は、「霊枢[注1参照]」の邪客篇の中で、「人と天地は相応ず」と言われている。天と地は自然界を代表し、相応ずとは自然界の変化が人体に影響を与えるとき、人体は必ず自然界に相応ずる反応を生じることを指すのである。』

 

[注1] 霊枢:世界記録遺産にも登録されている中国最古の医学書

 

これはいろいろなことを示唆してくれます。身体を東洋医学の観点から診ていると特に次のことを感じます。

 

・心身共に円滑に稼動するためには「バランス」と「循環」が重要な要件である。

・人間の身体も自然と同様、各要素間の「連携」、「相生」、「相克」がある。

・常に「循環」している。それも自然と同じ仕組みで動いている。

・「栄枯盛衰」がある。

 

 

2. 生命の活動にはエネルギーが必要→そのエネルギーを気と呼ぶ

いろいろな生命活動のためにエネルギーが必要です。東洋の古代の人はそのエネルギーを「気」と呼びました。「気」は一つではありません。運動、成長、免疫、防御、代謝、維持、治癒、思考、感情、記憶等、肉体的に、精神的に、いろいろな活動している「気」があります。

この「気」は絶えず流れるもので、滞ったときや逆流したときに変調をきたします。また、個々の「気」は、相互に影響し合います。

 

3. 身体には気が流れるいろいろなルートがある→そのルートを経絡と呼ぶ

東洋の古代の人は身体の中に上記のエネルギーつまり気が流れる、気をめぐらすためのルートがあると考え、そのルートを体系化しました。このルートを「経絡」と呼びます。

この役割は気の運行、防御、調整(陰陽、臓腑の虚実)、伝導、病状の反映と考えました。

体系化にあたっての数千年にわたる経験や臨床の積み重ね、深い洞察に感銘を受けます。

 

ここで素朴な疑問が湧いてきます。 

・経絡は線だろうか? それとも帯状のものだろうか? 広がりを持った膜みたいなものだろうか?

・精神的な要素を結ぶルートとはどんなイメージだろうか? ホルモン?  神経?

・体系化されていないローカルなルートもあり、どこかの幹線に直接連絡しているのだろうか?

・経絡は神経、血管、ホルモン、膜等相互に関連した機能的な仕組みではないのだろうか?

 

 

4. ツボとは何か

数千年にわたる経験と臨床の蓄積から、人間の身体にある肉体的、精神的なもの等いろいろな要素には「経絡を通じて体表との通路」があると発見し、この通路をツボと呼びました。そして、そのツボも体系化すると同時にいろいろな個性や特徴があることも発見しました。現在もなお、新しいツボが発見されています。

 

 

5. ツボには経絡のルート上にあるものとないものがある

経絡理論が確立された後も経絡のルートにないツボが発見されました。

経絡のルート上にあるツボを「経穴」または「正穴」、ルート上にないツボを「奇穴」と言います。

奇穴は独特の効果を持つものや、経穴を補佐するような効果を持っています。昔奇穴であったツボが経絡に組み込まれたものもあります。

 

奇穴から考えられることは上記の疑問「・体系化されていないローカルなルートもあり、どこかの幹線に直接連絡しているのだろうか?」の答はYesということになります。

 

6. 経絡の分類

身体を縦に連絡する「経脈」と、身体を横にあるいは経脈間を連絡する「絡脈」から構成されます。さらに次のように分類されます。

・経脈は十二経脈、奇経八脈、十二経筋、十二経別

・絡脈は十五絡脈、浮絡、孫絡

・十二経脈と奇経八脈のなかの督脈、任脈を合わせて十四正経と言います。

 

このサイトでよく使う経絡は十四正経と十二経筋と奇経八脈とです。奇穴も使います。

 

7. 十二経脈

十二経脈の特徴について話していきます。 

①十二経脈の呼び名にはすべて臓腑の名前が冠されています。

『「霊枢」の海論篇に、「十二経脈は内にあっては臓腑に属し、外にあっては肢節に連絡す」といっている。これは経絡が臓腑と体表との連接通路であることを説明している。」』

 

②臓腑は六臓六腑あります。

六臓六腑は、ひとつずつの臓と腑で6個の組み合わせ(右図参照)があります。この組み合わせは協働していると考え、治すときもこの組み合わせをよく使います。

なお、臓の定義は内腔を欠き、組織が充実した器官で、腑の定義は内部が空洞で、管状や嚢状をなす器官です。

 

東洋医学の「臓腑」という定義は西洋医学の内臓とは大きく異なります。これは「臓腑論とは何か」ページで説明したいと思います。

 

但し、「心包」と「三焦」は東洋医学しか定義していない臓腑なので、ここで説明しておきます。

東洋の古代の人は身体全体をめぐる仕組みも臓腑と考えていたようです。そしてそれに名前をつけました。

 

その機能は「中国漢方医学概論」を見ると次のように書かれています。

・心包:心の外衛であり、心臓を保護する、心の命令を執行する(59ページ)

・三焦:気・血・水をゆきわたらす、飲食物を腐熟する、水の通る道を整える(71ページ)

 

なお、一般に言う五臓六腑の五臓は心包を心に含めます。

 

著名な鍼灸家似田敦先生はご自身のブログ「現代医学的針灸治療」に次のように書いています。

 

「心臓を動かす力が心包の機能であり、体温を生む力が三焦の機能」 

 

(参考文献)

・似田敦 (2006)、『三焦・心包とは何か?』、 閲覧日 2020-05-02、https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/5100056858ee056fff48bbe277226548

 

いろいろな異論はあると思いますが、次のように捉えるとわかりやすいと思います。

「心包」:全身の脈管系

「三焦」:全身のリンパ系

 

こう捉えると次のような疑問が出てきます。

・自律神経系を司る経絡があるのではないだろうか? 

 

③十二経脈はつながっています。

肺→大腸→胃→脾→心→小腸→膀胱→腎→心包→三焦→胆→肝→(肺→…)

 

④十二経脈のルートはツボ、内臓、次の経絡をつなげています。誤解しやすいのですが、ツボを結ぶ線だけが経脈ではありません。

 

⑤十二経脈の呼び名には「手」または「足」がついています。経脈のルートの一部に手があるか、足があるかというところから名付けられています。

 

⑥経絡には陰陽の名前がついています。経絡のルートを陰と陽に分け、陰陽をさらに三陰三陽に分けました。

 

三陰三陽は次のように定義されています。

・陽の多い順から陽明>太陽>少陽、陰の多い順から太陰>少陰>厥陰

 

経絡が走行する場所によって次のように定義されています。

・内側:陰、外側:陽 

・前面:陰にしても陽にしても一番多い、後面:次に多い、側面:一番少ない

 

合わせると次のようになります。

・内側前面:太陰、内側後面:少陰、内側側面:厥陰 

・外側前面:陽明、外側後面:太陽、外側側面:少陽

 

下図は手足の経絡のルートと三陰三陽の割り当ての図です。

足は大腿部、手は前腕部の断面です。

実際の経絡図に三陰三陽を振分けると次のようになります。

⑦以上を網羅すると下図のような一覧になります。

上記の陰陽の断面図とは側面と後面の記述の順番が逆になっていますので注意してください。 

⑧臓腑も五行論に基づき、「相生」、「相克」という関係性を持つと考えます。 

・五行論:全ての要素を五つに分け、その五つの「相生」、「相克」の関係をもって要素間の相互の関連及び共通性の理論付けをしようとするもの

 

下図に臓腑の五行図を掲載します。

なお、心包、三焦は「火」に属します。

 

それぞれの臓腑が協調しあう(相生)、一方抑制しあう(相克)という考え方です。経絡を使うときにはこの考え方も取り入れます。本サイトでは「相生」をよく使います。

⑨次は本サイトで掲載している各経絡の主な病症や状態です。

・肺経……風邪気味の症状、皮膚の免疫力アップ、悲しみを癒やす

・大腸経…下痢、便秘、大腸の不調による湿疹予防、腱鞘炎

・胃経……消化器系の不調、下肢疲労

・脾経……冷え症、血流改善、ホルモンバランス、むくみ、必要以上に思い悩む、くよくよする、結論が出ないことにあれこれ考える

・心経……精神的な不安定→落ち着きを取り戻す

・小腸経…免疫力アップ、肘痛、肩甲骨上のこり

・膀胱経…下肢倦怠、血流改善、座骨神経痛、臓腑の調整

・腎経……「老い」のバロメータ、疲労回復(心身共に)、生命エネルギーを取り戻す、歯や骨、髪、耳などにでる症状の改善

・心包経…不整脈、動悸、内から来るストレス

・三焦経…外から来るストレス、発熱

・胆経……めまい防止、筋肉の損傷/疲労、座骨神経痛

・肝経……イライラ防止、怒りを抑える、めまい防止、目や筋肉、爪にでる症状の改善

 

⑩これまで十二経脈について話してきましたが、十四正経を構成する奇経八脈のなかの督脈、任脈について話します。

背部の正中線の督脈は「陽脈の海」と呼ばれ全ての陽の経絡を統括、胸腹部の正中線の任脈は「陰脈の海」と呼ばれ全ての陰の経絡を統括していると定義づけられています。

また、督脈と任脈とは、陰と陽、表と裏をなしているとも言われています。

 

⑪本サイトでは全身を統括する経絡として、「足太陽膀胱経(膀胱経と略す)」の背中第一行(背中正中線より指2本外側)と第二行(背中正中線より指4本外側)も勧めています。「背中のツボ図解」ページを参照してください。この経絡にも六臓六腑を調整するツボが並んでいます。

上記で「・自律神経系を司る経絡があるのではないだろうか?」という疑問の投げかけをしましたが、その解がここにあるようです。

 

膀胱経と名前はついていますが、膀胱の調整だけをする経絡ではなさそうです。

ここでまた次の疑問が出てきます。

・なぜ膀胱経に六臓六腑を調整するツボを配置したのだろうか?

・自律神経系を司る経絡やツボはほかにもあるのではないだろうか?

臨床上、これもそうではないかという経験をよくします。

例えば、井穴(十二経脈の爪の際のツボ)、頭のツボ、顔のツボ、耳ツボ、華佗夾脊穴(各椎骨の棘突起の下縁から、指1本弱外側))等です。逆に言うと自律神経を乱す要因にはさまざまなものがあり、従って治療法も多岐にわたっているということなのかもしれません。

 

8. 十四正経の使い方

本サイトにおける十四正経の使い方です。

①まず、症状が出ている経絡及び臓腑の経絡を使います。

②臓腑の関係から表裏の経絡を使います。

③次に五行論から相生の経絡を使います。

 

9. 選択するツボ

経絡が決まったら、経絡のルートにあるツボを選択します。ツボの定型的な役割、特効、個性を考え、候補を選択します。本サイトでは個別のページに記述してあります。選択するツボが決まったら、対象のツボの状況を確認します。

対象のツボの状況を確認する方法は「ツボ療法の方法」ページの「ツボの見つけ方」の項を参照してください。ツボの状況を確認し、決定します。

 

10. 十二経筋

①体表と筋肉を運行します。従って、関節や筋肉を主体とした運動器系愁訴や治療後に残る動作時の痛みに対応します。

十二経脈の分布とほぼ一致しますが、六臓六腑は通りません。従って、十二経筋の呼び名には臓腑の名前がありません。

古代の人が全身の筋肉を体系化していたことに感銘を受けます。

 

②痛みやこわばりのあるところを流れている経絡の熱を取るツボ「滎穴」、関節の痛みを取るツボ「兪穴」と呼ばれているツボを使います。「滎穴」、「兪穴」を使う手法は篠原昭二先生が著書で勧めている手法です。

 

③関節部の筋肉や腱の付着部も調べ、治療点とします。経絡のルートに幅があるように感じます。

 

④または痛みを起こしている近くの場所で十二経筋のルートに沿ったツボを使います。炎症の場所は触りません。

 

11. 奇経

①十二経脈の気の循環がうまく流れていれば、健康ということになるわけですが、東洋の古代の人は十二経脈に異常があると気が溢れ、溢れた気を受け入れる経絡があると考えました。十二経脈の気のあふれを奇経で受け入れ、十二経脈の気の流れを擬似的に正常にするという考え方です。八つの経絡があり、奇経八脈と名付けました。任脈、督脈も入ります。応急処置であり、平行して十二経脈の治療は必要です。

 

②奇経八脈には次のような特徴があります。

・性質や作用が類似する経絡を二つずつ組み合わせて治療します。

・いくつかの十二経脈をまたがっている経絡であるため、ツボは十二経脈から借りています。

・督脈と任脈は独自のツボも持っています。

・それぞれの経絡には代表するツボがひとつずつあります。そのツボを八宗穴(八総穴)」と言います。治療はこの八宗穴を使います。

 

③本サイトでは症状毎に選んだ八宗穴のペアにピップエレキバン(片側N極、反対側S極)を貼り、磁力線を発生させる方法を使っています。

刺激を与える方法として、有名な古典「難経」(28難)には瀉血が書かれています。金/銀、銅/亜鉛を使う方法もありますが、本サイトでは一般の方がやりやすいようにピップエレキバンを利用しています。

 

12. なぜ脳を臓腑に入れなかったのだろうか→なぜ、脳の経絡を作らなかったのだろうか?

これも疑問です。

・確かに、脳及び顔には督脈、膀胱経、三焦経、胆経、小腸経、大腸経、任脈と十四正経の内、七つの経絡が走行しています。脳には臓腑が大きく関連し、司っていることがわかります。このことは大きな意味があることもわかります。

・しかし、東洋の古代の人はなぜ脳を臓腑の中に入れなかったのでしょうか? ひいてはなぜ脳を冠とした経絡を作らなかったのでしょうか? なぜ、脳から臓腑を走るルートを作らなかったのでしょうか?

・はたして、1950年代から次々と頭鍼療法が中国、日本で開発・考案され、WHO(世界保健機関)は国際標準頭鍼(案)を定めました。

本サイトでは古典的な頭のツボ及び新しく開発・考案されたツボを認知症、脳卒中予防等で紹介しています。

 

(本ページの参考図書)

・入江正(1982)『経別・経筋・奇経療法』医道の日本社.

・王暁明 (2015) 『頭鍼臨床解剖マップ』 医歯薬出版.

・加藤直哉・冨田祥史 (2019)『山元式新頭鍼療法の実践』山元敏勝監修 三和書籍.

・篠原昭二(2005)『誰でもできる経筋治療』医道の日本社.

・篠原昭二(2009)『臨床経穴ポケットガイド』医歯薬出版.

・代田文誌(1978)『針灸治療基礎学』医道の日本社.

・芹沢勝助(1976)『人体ツボの研究』ごま書房.

・南京中医学院(1976)『中国漢方医学概論』中国漢方.