「自分でできる運動療法」から、体力的にも時間的にも無理のない範囲でできる運動を選択し、養生法として、組み立てました。
狙いは次の3点です。
・脱力、脱緊張
・下半身の筋肉の強化
・脳の疲れからの回復
《豆知識》
東京大学高齢社会総合研究機構教授飯島勝矢先生によると
・「栄養や社会参加には興味がないけれど、1回30分以上の汗をかく運動を週2回以上、1年以上行っている」人と、「栄養に気をつけ、社会参加はしているが、運動はやっていない」人では、サルコペアを発症する確率はさほど変わらない。運動、栄養、社会参加の3つの活動を行っている人のリスクを1とすると、上記の前者のリスクは1.6、後者のリスクは1.77である。但し、何もやっていない人のリスクは3.47である。
・サルコペニア:年を取ったり、病気を患うなどして、筋肉の量が減少し、全身の筋力が低下した状態
・「栄養(食、口腔)」、「運動」、「社会参加」が健康長寿の3つの柱である。
(豆知識の参考文献)
・飯島勝矢(2018)『東大が調べてわかった衰えない人の生活習慣』KADOKAWA.
1. まず、足首、手首を同時に10回程度回します。末端の血流を改善し、転倒予防、認知症予防につなげます。
2. 手の各指を1本ずつ片方の手で握り、根元から先端に向けて、斜めの方向に回しながら押し揉んでいきます。各指5回ぐらい揉みます。一日何セット回行っても結構です。捏五指法という気功法です。頭、手足の血流改善を狙います。
3. 次に肩まわしをします。
肩の先端に手指を当て、左右一緒に後方に10回程度回します。次は前方に10回程度回します。
4. 肩甲骨まわりを柔軟にして、肩こり、首こりの予防をします。
①立つか、椅子に座った状態で、肘を曲げたまま上肢を挙上し、先に肘を前に出し、次に背中をそらすように上肢を後ろに回します。肘を前に出したときはできるだけ肩甲骨間を広げ、肘を横に回したときはできるだけ肩甲骨間を狭めます。肘を前に出したときは小指を手前に手背を合わせ、肘を横に回したときは手のひらを外向けにした方が肩甲骨の可動域が広がります。これを5回行います。
②同じように立つか、椅子に座った状態で、肩を後屈し肘を曲げたまま、上肢を挙上し、次に下ろします。この動作を繰り返します。後屈がポイントです。頸の痛みも取ります。上肢を挙上したときは手のひらを内側に向け、下ろしたときは手のひらを外に向けた方が肩甲骨の可動域が広がります。これを5回行います。
5. 吸息筋を養生し、呼吸を楽にします。
立った姿勢で腕は下ろしておきます。まず、肩を後屈します。肩を後屈したまま、腕を挙げていきます。肘を伸ばしたまま、両手が重なるまで腕を挙げていきます。痛みがある場合はそこで止めます。そして、肩を後屈したまま下げます。この動作を10~15回繰り返します。腕を挙げるとき、鼻から息を吸います。下げるとき、鼻から息を吐きます。肩を後屈したまま動かすのがポイントです。肩を前屈したままの姿勢が生活習慣になっていることに気がつきましょう。
6. 首のストレッチです。
慢性化している首の痛みがひどくなることを予防する目的で首のストレッチも有効です。特に痛みのある側の筋肉をストレッチします。
・例えば、首を右斜め上に曲げると左首が痛い場合の対処法です。
・左腕の肘を90度に曲げ、背中に前腕外側をつけ、固定します。こうすることで次の動作の首を押し下げたとき、肩が上がらないようにし、可動域を広げるようにします。
・右手を頭頂部に置き、右斜め下に押し下げ、10秒ぐらいキープします。軽く押し下げることがポイントです。
・左右を逆転し、反対側もやります。
7. 腰痛予防のストレッチです。
①東京大学医学部付属病院特任教授の松平浩先生が推奨している方法です。
・足を軽く開き、膝を伸ばしたまま、手のひらを腰に当て、上体をゆっくり反らします。
・1、2回3秒間息を吐きながらキープします。
・コツは後に反らしすぎないことです。ほんの少しで結構です。
・前かがみの姿勢が続いた後有効です。
・但し、脊柱管狭窄症の人は除きます。
(本項の参考文献)
・松平浩(2016)『腰痛は「動かして」治しなさい 』講談社.
・松平浩(2016)『文藝春秋2016年11月号』文藝春秋.
・松平浩(2013)『「腰痛持ち」をやめる本』マキノ出版.
②次に孫維良先生が推奨している「腰眼押しまわし」という方法です。 脊柱管狭窄症にも有効です。
・右図「腰眼」というツボを親指で押しながら、腰を左右に15回ずつ回します。
・「腰眼」というツボを親指で押しながら、上体をゆっくり前に倒します。そして、ゆっくり戻します。10回繰り返します。前に倒すことで痛みが増す場合は、止めて下さい。
「腰眼」 (第四、第五腰椎棘突起間脊柱の傍、指4本強、腸骨の上端の高さ)
(本項の参考文献)
・孫維良(2018)『脊柱管狭窄症の痛みは指1本で消す!』宝島社.
8. 次に中国に古くから伝わる気功法「スワイショウ(甩手)」です。
自律神経を整えます。4つの方法があります。それぞれの方法につき最低でも1分、合計4分はやってください。時間が無ければ、①と④をやってください。
①前後に腕を振る方法です。
・足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
・両手を前後に腕や肩の力は抜いて振ります。前に上がった時はせいぜい胸の高さぐらいまで、後ろは前に持ち上げられた腕の重力の反動にまかせます。
②横に腕を振る方法です。
・足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
・両手を横に、腕や肩の力を抜いて振ります。
③左右の肩の線や上腹部を横にねじります。できるだけウエストのひねりは抑え、胸部や上腹部を横に向けることを意識します。これが次項のでんでん太鼓のようなねじりとの大きな違いです。
・腕は横に振りますが、体の前、後に振り分けます。
・足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
・両手は肩の位置に横に伸ばしておきます。どちらでも良いですが、仮に右腕を体の前でふるとしたらとしたら、左手は体の後ろ側にふります。同時に胸部や上腹部を左横に向けます。
・次に両手は肩の位置に横に伸ばす姿勢に戻します。今度は左腕を体の前でふり、右手は体の後ろ側にふります。同時に胸部や上腹部を右横に向けます。
・これを繰り返します。
④でんでん太鼓のように、ねじりを入れ回転します。ウエスト及び下腹部を横に向けることを意識します。
・立った姿勢で、足を肩幅ぐらいに広げて立ちます。その際、つま先は広げず、正面を向けます。
・腕の力を抜いて、腕を垂らしたまま、頭頂から背骨、尾骨の縦の線を軸にして、ウエストをひねって回転運動をします。ウエスト、下腹部を横に向けます。足の床への接着面はそのままです。
・腕と肩の力を十分に抜き、腕は体に巻きつくようにまかせる感じです。勢いをつけて回さないでください。
・首もあわせて回しますが、めまい防止のため回しすぎないでください。
・首は正面を向いたまま、回さない方法もあります。片頭痛の予防の場合は、顔は正面を向いたまま、首を回しません。これは重要なポイントです。
・猫背で首が前に出る姿勢の方は首を前向きに固定したまま、腰をひねる方法を勧めます。
・左右に巻きつくとき口からふっと息を吐きます。吸うときは自然に任せます。但し、無理をする必要はありません。自然に任せてください。
9. 片脚立ちをしながら、足上げ、太もも上げをします。骨粗鬆症や転倒による骨折防止と筋肉強化に有効です。昭和大学の阪本桂造先生によると1分間の片脚立ちの負荷は53分の歩行に匹敵するそうです。下肢筋力だけではなく、脳のトレーニング効果もあると言われています。
①開眼(目を開けたまま)片脚立ちをしながら次の運動をします。左右それぞれ1分ずつです。
②太もも上げ
・腸腰筋を鍛えます。
・腸腰筋は腸骨筋、大腰筋及び小腰筋から構成され、股関節を屈曲する筋肉です。小腰筋はほとんど退化しており、実質腸骨筋、大腰筋で構成しています。
・この筋肉が衰えると猫背姿勢になり、足が上がりにくく、つまずきやすくなります。
・まっすぐ立ち、太ももを前方に上げます。股関節の角度は慣れてきたら90度ぐらいです。
③足上げ
・大臀筋、中臀筋、ハムストリングを鍛えます。
・まっすぐ立ち、片脚立ちのまま、もう一方の片脚を前、横及び斜め後ろ(中臀筋を鍛える)、後ろ(大臀筋、ハムストリングを鍛える)に上げ、キープします。上げる高さは踵が床から20~30cmぐらいです。なお、片足立ちをしてもふらつかないようにバランスがとれるのは中臀筋のおかげです。
・安定しない場合は壁に手をついてください。
《豆知識》
・「開眼片脚立ち時間」が20秒未満の人は、明らかに「かくれ脳梗塞」、「かくれ脳出血」を持っている可能性が高い。「認知機能の低下」とも関連している。
(豆知識の参考文献)
・伊賀瀬道也(2016)『血管力革命 健康寿命を延ばす46の知恵』冬樹社.
10. 足の指を床につけた状態で踵を上下させる運動です。上げるときは2秒、下ろすときは3秒かけ、数十回行います。ふくらはぎの筋肉を強化します。
11. 下半身の強化です。「コーナー・スクワット」と呼ばれている方法で、大腿四頭筋、大臀筋、ハムストリング、足を広げることで内転筋も強化します。
・部屋のコーナーの隅に立ちます。適当な場所がなければ片側だけ壁に沿って立ちます。
・足は壁に沿わせます。従って、膝、足先は壁際に沿うことになります。
・足の広げる範囲は、腰を落としたときに膝が足先より出ないような広さになります。
・腰をコーナーに沿わせたまま、落としていきます。
12. 次の方法でリラックスします。床に座る(あぐら)か、椅子に座ります。
①親指と人差し指で耳の上、下、横を挟み、それぞれ上方、下方、横方向にそれぞれ3~5回ずつやさしくひっぱります。少し顔を上向き加減にした方が良いと思います。
②あくびをします。やり方は簡単です。
・首を後ろに倒し、顔の筋肉を全て緩め、口をぽかんとあけます。自然にあくびが出ます。